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魔系犬が吠えるとき
別伝:桃太郎戦隊

作 とびたかろう  装丁 彩女

桃太郎のパロディはずいぶん書かれてます。
明治にすでに、 苦桃(にがもも)から生まれ人間征伐に向かう鬼の桃太郎。
大正時代には、鬼のような資本家と戦う民衆の味方の桃太郎。
軍靴響き渡る昭和には、鬼畜米英を征伐する神兵の桃太郎。
戦後には人と自然にやさしい桃太郎。
桃太郎はなんにでもなる。正義と悪。戦争と平和。
桃太郎のパロディを作るのはひどく簡単、安直なことです。
ですからあまり面白くありません。
というか、良識があるなら書いてはならないのです。
ろくな作品にならない。

芥川龍之介が「桃太郎」を書いてしまっていますが、箸にも棒にもかからない愚作だと私は思ってます。
太宰治は浦島、舌きり、こぶとり、かちかち山を題材とした短編を書いて「お伽草子」にまとめていますが、
桃太郎は意識的に避けています。
書いたのが戦時中ですので、微妙ないいまわしながら「日本一」は書かないのだと。
見識だと思います。

そのことを自覚しておきながら、わたくし
桃太郎戦隊なんてものが出てくる小話を三つほど書いてしまった。
で、また書くのか?



この森の鬼どもの臭いの痕跡はすべて古いものだな
今はいないと思って間違いないだろう
襲撃の噂は噂にすぎなかったわけだ
もう引き返して、村長を安心させてあげよう

しかし遠出して歩くのが大好きな私が、なにやら虚しさを感じるのはなぜだ。
本来私は集団行動が好きなのだ。一人で遠出してもな。
桃太郎隊長、雉隊員、猿隊員たちと一緒に、鬼が島をめざした旅、そして島での決戦。
辛いこと、苦しいことがいっぱいあったけど、生きているっていう充実感があったよな。
あのときが、私の人生の頂点だったのか。

鬼が島を滅ぼした当初こそ、都の人々も我々に感謝した。
しかし、今では「力ずくで滅ぼしたのは間違いだ、粘り強く平和的説得を続けるべきだった」とか
「暴力の連鎖はなにも生まない」などと、したり顔の批判がまかり通っている。

島を逃げ出したザコ鬼どもが、あちこちの山に潜み、ふいをついては人家を襲いだしてからは、
それがまるで我々のせいであるかのように言うやつまでが出てきている。
あの、鬼どものやっていることを見ろ。
無力な女子供、老人も容赦なく皆殺しにして食料や金品を奪って逃げる。
あんなやつらに説得が通じるか?
力で滅ぼすしかなかったのだ。
逃した鬼どもも必ず探し出して、我々が滅ぼしてみせる。

だいたい、したり顔の批判をする奴らは、
我々が持ち帰った宝の山に群がり、あっという間に取り込んでしまった奴らじゃないか。
そして、鬼の襲撃があるという噂があると、とたんに批判の声を忘れて、我々に庇護を求めてくる。
だが大抵の場合は噂だけだ。誰が流す噂だ。我々を引き回し疲れさせるために流している噂としか思えない。
鬼どもに脅されてそうしているのか、鬼どもに買収されたのか。
だれのため、なんのために戦っているのだろう…。
いかん、こんな弱気が桃太郎隊長に知れたら、また折檻だな。
ご褒美に、餡子クリームおにぎりをいただくよりはましだろうけど。

うん、気のせいか、かすかな、ほんのかすかな臭いが。
あの岩陰からか。

(しまった見つかった。
犬並みの嗅覚を持つから犬隊員と呼ばれているのは本当だったんだ。しょうがない!)

なんだ、いきなり飛び出してきて、鉄の棒を振り上げたが、子供じゃないか。

ポカ、ポカ、ポカ

しかも本気で叩いてくる。
少し痛いぞ。
「やめなさい、ぼうや。私は怪しいものではない。聞いたことがあるだろ、桃太郎戦隊の犬隊員だ」

ポカ、ポカ、ポカ、

うーむ。本気で挑んできている以上、少しは相手してやらないと失礼か。
子供にしては、たいした攻撃力だし、体力も並みの子供ではないだろう。
では、小指デコピン。

ピン

いかん、すっ飛んで岩にぶつかってしまった。
おい、生きてるか?

「てててて」
生きてる。しかも気を失なってない。たいしたものだ
おや。近くで見ると、頭にかすかに突き出しはじめたものが。

「鬼なのか。坊やは」
「そうだ、さっさと殺せ」
「そうだな。鬼ならばしかたない」

鬼とはいえ、子供を殺すのは、気が進まないものだ。

「鬼に光を、人間に天罰を」

鬼どもは死ぬ前に必ずこれを言うが、不愉快なものだ。

「その悪態をやめれば、楽に死なせてやる。でないと、いたぶり殺されるぞ。
これは軍規で決まっていることでな。相手が子供であろうと、私は守る」
「悪態じゃない。
人間よりはるかにすぐれた徳を持つ鬼がこの世に栄え、邪悪な人間が滅ぶのは、神様の願うところさ」

「鬼が人間よりすぐれているいうのか」
「鬼は人間の二倍の体を持ち、四倍の力を持つ。そして八倍の知恵を」
「チエはお笑いだが、力はそのとおりだ。並みの人間はとても鬼にはかなわない。
鬼はそれをいいことに、人間を奴隷にしてきた」
「鬼が人間を奴隷に?人間の汚さって、変なものだね。これから殺す相手にさえ嘘をつく」
「嘘?鬼が人間を奴隷にしてきたのは曲げようのない歴史的事実だ。
鬼が滅びゆくのはその当然の報いなのだ」
「ふーん。人間はそんな歴史をでっちあげているんだ」
「でっちあげ。
ほんの少ししか生きてない、なにも知らない子供が。鬼は子供になんと吹き込むのだ」
「おじいちゃんが、なんども教えてくれたさ。
鬼と人間はともに暮らしていた。
鬼には力があった。だから汗を流す骨の折れる仕事を引き受けた。
人間は楽な仕事を引き受けた。計画したり計算したりの」

「鬼と違い人間にはチエがあることは鬼も認めてるようだな。
だからそんな神話を作るわけだ」
「鬼にもチエはある。けれど人間には力がない。だから鬼は、苦しい仕事を引き受けた。
けれどその鬼の仕事に助けられて、人間は機械というものを生み出した。
機械が力のいる仕事をなくしてくれたので、鬼も人間と同じ仕事をしようとした。
けれど、鬼は人間の4倍のご飯を食べる。
人間は鬼が4倍のご飯を食べるのは欲張りだと言い出した。
機械の力で前よりも多くの食べ物が作れるようになっていたのに、鬼に食べさせるのが惜しくなった。
鬼に人間と同じご飯を与えて平等だと言った。それでは鬼は生きられなかった。
鬼は人間にお願いした。
鬼が人間の4倍のご飯をたべても、お互い、おなかいっぱい食べているいるということでは平等だと。
人間は聞かなかった。鬼はおなかを空かせていた。
人間がわかってくれる日を待とうとした。けれどいつまでもは待てなかった。
鬼たちは鬼だけの世界を作るから、それができるだけの食べ物と機械を持って行くと人間に言った。
泥棒だと人間は言った。
鬼は生きるために、食べ物と機械を持って島に渡ろうとした。人間が邪魔をした。
鬼と人間が争った。多くの人と鬼が死んだ。
けれど鬼が島に自分たちの世界を作った後は、人間とかかわらず平和に暮らしてきた。
だが、やがて鬼たちが豊かな暮らしをしていることを知った人間たちが、それを奪いに侵略してきた。
超能力を持つ人間たちの部隊を先頭に。桃太郎戦隊という悪魔たちが」

「なんとまあ、たわけた話を。
鬼の奴隷になっていた人間たちを解放するために立ち上がったのが、かの英雄、初代桃太郎さまなのだ。
我らが桃太郎隊長は2代目にあたられる。
鬼たちは桃太郎戦隊によって追放された。だが殺さず追放した桃太郎さまの慈悲があだになった。
鬼が島に結集した鬼どもは再び人間を支配すべく、侵略計画をたて、恐ろしげな兵器を開発しようとしていた。
その悪巧みを打ち砕いたのが我らが桃太郎戦隊なのだ」
「恐ろしげな兵器?そんなものが鬼が島のどこかにあったかい」
「いや、それは鬼たちがどこかに隠した」
「探したの?」
「探したさ」
「見つかったの」
「見つからない」
「つまり、ないんじゃないか」
「桃太郎隊長はおっしゃった。見つからないということは無いということではない」
「そんな詭弁を言って平気なんだ。人間は」
「…。わたしのもっとも活動的だった頃、私の青年時代、壮年時代をささげた、鬼が島討伐。
すべての人間に永遠の平和をもたらすための戦い。
それを否定するようなたわごとを私が信じると思うのか」
「ぼくの言ってることは真実だ。
見つからない兵器なんかと違ってちゃんと証拠がある」

「証拠?」
「鬼が人間を奴隷にしてたのなら、どうして今、人間が鬼を家畜にしてるのさ。
おかしいじゃないか」

「鬼を家畜にしている。どこでそんな妄想を吹き込まれたのだ」

バカバカしい。人間の4倍も喰らう無駄飯ぐらいを家畜にしてなんの役に立つ。
人間にだって、満足に食べられない人々が多いというのに。

「妄想?しらばっくれて。あちこちで、鬼を育てているだろ」
「アチコチ?
そんな名前の場所はないぞ。証拠というなら、ここにあると教えてくれなきゃ。
あちこちというだけで、本当はどこにもないんだろ。そんな場所は」
「たっ、たとえば、
スクタルパスの丘にある高い塀で囲まれた建物で何が行われているか、
お前が知らないはずがない」


スクタルパスだと。
軍の最高機密施設がある場所じゃないか。
なぜその名を、鬼の子供が知っている?

「坊や何かを知ってるようだね」
「そうさ知ってるさ。人は鬼を食べる。
仲間を、狭い部屋、暗い部屋で育て、ぶくぶくに太らせてから」

「とんでもないホラを聞かされてるもんだ」
「とぼけるな。
生まれたときから、言葉も知らず、狭い部屋で育てた豚鬼。心なんてものはない。
人間はそう油断してるだろう。
けど、人間の話を理解し、外の世界があり、そこでは鬼は家畜ではない。そう気づき始めた仲間がいるんだ。
逃げ出そうとして多くの鬼が殺された。けれど、川へ落ちて助かった鬼がいたのさ。
人間は死んだと思っただろうけどね。
ばれてるんだよ。人間と戦う鬼を滅ぼそうとしながら、一方では鬼を家畜として繁殖させている。
やがてそれが人間の命取りになるとは思わずね」


ありえない話だが、なんのためにこんな話を鬼はでっちあげたいんだ?
ともかく子供とはいえ、スクタルパスの丘を知っている以上、何か大事なことを聞き齧っているはず。
喋らせよう、もう少し。

「命取り?ほー、なぜだい」
「家畜にされてる仲間たちを、ぼくたちが解放するからさ。
お前ら人間に殺されて鬼の数はどんどん減っていると思っていた。
大人たちさえやけになってた。
でも希望が見えた。人間が鬼を育てていてくれた。
解放し、鬼としての心を教えて、戦士にできるなら」

「どうやって解放するんだ。卑怯に逃げ隠れている鬼が」
「ふん。家畜にされてる仲間の間に、秘密の連絡網ができている。
それと自由な鬼が連絡を取り合って、内と外で戦いを起こせば、人間なんかには負けないさ。
僕はね、まだ子供だけど、子供だから鬼の臭いがあまりしないから、
秘密任務で人間の子供のふりしてスクタルパスの丘へ行くところだったんだ」


ほー秘密任務か。子供の空想というものは鬼も人も変わらないものだ。

「いいのか坊や。そんなことをべらべら喋って」
「あっ!」

やれやれ。さて、気が重いが先延ばしもここまでかな。

「ま、どうせ死ぬからなにを喋ってもいいのかな。おしゃべりは終わりだ。君を殺すとするか」
「鬼に光を、人間に天罰を」
「やはりそれを言うのか。ではこうしよう」
「岩に縛り付けてどうするんだ。さっさと殺せ」
「この森には、狼の群れがいる。そろそろ日も暮れてたし、彼らを呼ぶことにしよう」

ウオーオン、ヲーン、ヲーン

「もうすぐやってくる。彼らが君をなぶり殺してくれるよ。
さて、つまらないことで時間を使った。村長のところへゆかねば」

(狼だって?ちくしょう、人間と戦って死ぬんならまだしも。
人間ってどこまで鬼をバカにしてるんだ。
いや、人間には心というものがないんだっけ。
…おや、この紐、それほど丈夫じゃないかもしれない。あいつ、ぼくを見くびったな!)

−−−−−−−

さて、ちゃんと逃げたかな。
あの程度の紐は引きちぎれたはずだが。
よしよし。予定通り。
そして問題は、あの鬼の子が、どちらに向かって逃げたかだが。
くんくん。
…スクタルパスの丘の方角だ
少しは本当のことを言ってたのか。
だが坊や、この先には本当に狼の群れがいるぞ。
無事にいけるかな。

−−−−−−−−

足を折られて身動きできない狼が一匹
あっちで、ばたばたしてるのは目潰しをすり込まれたようだな
ここらの草が燃えてるのは、火を放って狼を驚かせたか
臆病な狼は追跡をやめただろう
なかなかやるじゃないか坊や
でも、村人が銀魔と呼んでるあいつ
あいつはそんなことではどうにもならないはず

−−−−−−−−−

傷だらけとはいえ、こんなところで眠り込んで
川を泳ぎきって追跡をまいたつもりでいるようだ

「おい、坊や、起きろ」
「えっ?…おまえは!」
「もうすぐ来るぞ。ここらの村人が銀魔と呼んでるとびきり獰猛な狼が」
「そうか、なぶり殺しを見に舞い戻ってきたのか
「そうだ。どうだ、死にたくないと怯えながら逃げ回る気持ちは。
あっさり殺されたほうがよかっただろ」
「ちがわい。生き延びて、任務を果たすんだ。そう思って戦ったんだ。
恐かったけど、怯えてなんかいないぞ」

「そうか。生き延びたら、鬼の良い戦士になれるかもしれないな」
「…」
「だが逃げてばかりじゃ、生き延びれない。
私も子供のとき、修行で狼の森に置き去りにされた。そして私は生き延びた。
坊やはどうする」
「お前にできたことが、できないわけがない!」
「じゃあやってみろ」

−−−−−−−−−−−

不器用なやりかただな
川岸で待ち受け
喉笛を狙ってきたのをかわし、腕に食いつかせる
それを抱きかかえて川に飛び込み溺れさせる
銀魔が溺れ死んだとは思えないが
川下に流されていったところを見ると
相当の水が肺に入ったのは間違いない
勝ちもしなかったが、とりあえず撃退したか
だが自分の血を流しすぎだし
あの左手はもう使いものにならんな

「おい、早く血を止めろ」
「あっ…」
「この紐でおもいきり縛れ。そのままじゃ失血がすぎる。
だが血を止めれば死にはしないだろうが、縛った先は腐るかもしれん。
早く鬼仲間が待ってるところへ帰れば、もう少しましな治療もしてくれるのかもしれないが」
「そう言って、ぼくを仲間の所へ案内させるつもりだろ」
「そんなことは期待してない。腕が惜しくて引き返すとは思わないからな」
「そうさ、行くんだスクタルパスの丘に」
「よし、行こう」
「行こうって?」
「私も見てみたくなった。『真実』というものをね」

−−−−−−−−−−−−−−−

「あのさ。ぼくに、家畜にされてる仲間への案内役をさせるつもりじゃないよね」
「そう思うのか」
「思わない。
おじさんは、本当に知らないんじゃないかと思う、家畜にされた鬼のことを」

「おじさん?お前じゃなくて、おじさんなのか」
「ありがとう」
「なにが」
「生き延びろと言ってくれたこと」
「私は何もしてない。生き延びたのは君だ」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「ほら、聞いていたとおりだ」

高い塀が異常だが、その奥にあるものは家畜小屋の屋根のように見える。

「そして、ここに目印がある。ここから塀を越えて向こうへいけるのさ」

ふむ。あそこにあるあれは隠しセンサーだな。侵入しようとすればすぐに見つかる。
この子鬼の仲間とやら。正体がばれて拷問され、子鬼を誘い込む目印を吐いたな。他愛のない計画だ。

「おい、その目印を信じると…」
「なに?」

いや、余計なお世話というものだ。

「行ってみるがいい。無事にいけるようなら、私も続こう。
私の肩に乗るがいい、だいぶ塀を越え易くなるはずだ」
「うん。おじさん、いよいよ真実が見えるよ」

行ったか。

ビーッ、ビーッ、ビーッ

ほれ、警報が鳴った。慌てて戻ってきたが

「おじさん、どうしてだろう。みつかちゃった」

重ねがさね、子供だ。まあ、子供だから仕方ないが。そして、ここの警備員は子供ではないぞ。
ほら、すっかり我々を包囲している。20人ほどか。どうするか。
この程度の連中なら、簡単に眠らせ「真実」とやらを見ることができるが。同朋に手荒い真似はしたくないな。
うん、あれは。
雉隊員。どういうことだ。彼は西方のゲリラの掃討作戦の指揮をとっているはず。
それはともかく雉隊員相手となると、簡単にはいかないな。強引に突破は無理か。

「犬隊員、なぜ君がここに」

向こうも気づいたか。

「それは私も聞きたい。君は西部戦線にいるはずではないのか」
「それは」

「私が極秘任務を与えた」

その声は

「隊長!」
「なにしに来たんだ」
「この子鬼についてきました」
「なんのために」
「この子鬼が言うに、この施設の中に鬼が飼われているというのです。
我々が絶滅させるために懸命に戦っているはずの鬼を」
「この施設は、鬼どもを絶滅するための極秘研究を行っている。多くの生きた鬼を実験台にしながらな。
ここの存在は桃太郎戦隊の中でも、私と、雉隊員しか知らない。猿隊員も知らない。
君に教えてなかったのは、教える必要がなかった。それだけだ。
さあ、さっさと自分の持ち場に帰りたまえ。そして無断で、持ち場を離れたことについて釈明書を書くがよい。
内容によっては処分もありえる」

「隊長。噂を聞いたことがあります。
餓えた人々がいるというのにごく一部の金満層が、国の予算を贅沢につぎ込んだ特別の肉を食べていると。
漠然としすぎていてとても信じられる噂ではありませんでしたが」
「それがなんの関係がある。持ち場へ帰れ。
軍規を守れないならば、功労多い犬隊員といえど、厳しい処罰は免れないぞ。
覚悟しておくのだな。まずは、この子鬼の始末からだが」


雉隊員だけならともかく、隊長を敵に回してなにができるか。
わたしも年貢の納め時か。その「真実」とやら、見てみたかったが。
いや、本当に見たいのか?

「実は隊長、油断してはいけません。それはただの鬼の子供ではありません」
「なんだと」
「わたしとて、この子鬼のホラを信じたわけではありません。
しかしこの子鬼は、やつらが開発した秘密兵器なのです。
隊長があるとおっしゃてた、恐ろしげな兵器の一つです」
「そんなものが本当にあったのか」
「あったのです。
うかつに攻撃すると自爆します。すざまじい破壊力です。
だから私はこの子鬼を見張りながらここまで来たのです。
並の方法では、これを破壊し無力化することはできません」
「どうすれば」
「わたくしの最終秘儀」
「まさか、あれは自分の命と」
「それしか方法はないのです」
「やってくれるというのか」
「はい、隊長がそうしろとおっしゃるのなら」
「ありがとう。君の犠牲は決して忘れない」
「やっていいのですね…」

そうか。そうなのか。そうでないと信じたかったが。

「わかりました。
聞いたか、秘密兵器コンニオ。お前の正体はばれている。私の秘儀で無力化されるがいい」

(なにを言ってるのだろう、おじさんは)

「この秘儀は、まさか自分が攻撃されるわけがないと油断していると逃げることは不可能だ。
だが、油断してなくても、お前は逃げられない」

(ますます、わけわかんない)

ワヲヲヲヲヲォーンー オーン オーン …

−−−−−−−−−−−−−−−

「まさかいきなり仲間を連れ帰ってくるとは。でかしたぞ」
「運がよかっただけさ。変な人間がいてね」
「変な人間?」
「桃太郎戦隊の犬隊員」
「走る残虐非道、人間畜生犬隊員のことか」
「そう」
こうこう、こういうことがあって
「ぼくは仲間たちを救い出すどころか、連絡を取ることも、仲間たちの姿を見ることもできない前に、
監視の人間たちに囲まれた」

「それがどうやって」
「そのとき、天を揺るがす断末魔の叫びが轟いた」
「まさか、伝説の最終秘儀、己の命と交換に広い範囲の敵を一気に倒してしまう、
魔系犬の遠吠」

「そう、犬隊員がそれを唱えたのさ。
もう終わりだと思った。けれどぼくは無事で、畜舎のすべての人間が気を失っていた」

(そしておじさんが死んでいた)

「間抜けだな。まちがえて鬼ではなく、人間を攻撃してしまったのか」
「分からない。でも、ぼくは、なんの苦労もなく仲間を救い出せたのさ」

おじさん。感謝はしないよ。
おじさんは弱虫さ。本当は分かっていたのに、それを見たくなかったんだね。
ぼくは強くなる。
鬼と人間が分かり合えるなんて無理なんだ。戦いは続く。だから強くなるしかない。
…強くなって、あなたと戦いたかったな。


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