くろっぴや
毎日、探しているのに、くろっぴや、くろや、君はいったい、どこに居るのだろうか?

掃除をしていたら、君が探せなくなった、お気に入りのオモチャが出てきたよ。
何をしていても、これが「からからーん」と鳴れば、すっ飛んで来た、君だったね。
・・・・・転がしてみたよ。・・・どこにいるの?この音、聞いてよ。

出会う人、出会う人に、携帯の待ち受け画像の君を見せて、探してくれるように、頼んだよ。
仕事以外の時間は、全部君のために有るんだよ。

わたしの声が聞こえたら、きっと答えてくれるはず。
どこかのおうちに潜り込んで、可愛がられているのだろうか?
それならそれで、かまわないのだけれど、雪も降ってきたし、懐中電灯の電池は切れるし、
犬が吠えると、君もきっと、小さくなっているのだろう、と、胸が痛いよ。

ストーブの前の毛皮の上で、日がな一日のんびり眠っていた君は、この寒空の下
一体どうやって時を過ごしているのだろうか?
眠くなっても、吸い付く耳たぶは、無いだろうに。

よく似た猫が、轢かれていたから、と言うので、すっ飛んで行ってみたよ・・・君じゃ無かった。
もっと大きくて、毛並みも違っていたよ。
ちゃんと、お念仏を唱えてきたからね。

魚屋さんや、マーケットにも、頼み込んでおいたよ。残飯をあさりに来たら、連絡をくれる、って。
犬の散歩の人、猫を飼っている人、みなさん、快く

「見つけたら、連絡しますね。ご心配でしょう?」

って、気にしてくれたよ。もちろん、学校のちゃぽくんにも、頼んだよ、
もしかしたら、一番頼りになるかもしれないもの、ね。

眠ることも、勿体なくて、なかなか出来ない。
眠り込んだら、君が、玄関でわたしを呼んだとき、気づかないかもしれないし。
おなかも空かないよ。君は、お腹が空いているだろうか?
玄関に、いつもの食事を、用意してあるよ。いつだって、食べて良いんだよ。
今朝は、水が凍っていたから、ちゃんと新しいのと取り替えたよ。
ミルクも、輪まわりしていたから、取り替えたよ。

お風呂に入る時も、窓から呼んでみる。
水の音を聞いたら、また、蓋の上に乗っかりに、帰ってくるかもしれなくて・・・。
わたしが、両手ですくったお湯を、ぴちゃぴちゃ飲むのが好きだったでしょう?

おまじないに、庭で、またたびを炊いたよ。
君はオスだから、臭いに誘われて、帰ってくるかもしれないから。

布団に入って、電気を消して、そっと呼んでみる・・・・「くろっぴ?くろや?」
あたりは、しぃーんとしたまんまだよ。何時間たっても・・・・。


今、あんなにのぞんでいた、「帰ってきたとき、朝の出がけと同じ部屋」に、わたしは帰ってくる。
ペンも、消しゴムも、朝、置いた場所に、きちんと、そのまんま、在るよ。
本棚の書類も、きちんと並んでいるよ。花瓶の花も、動かずにいるよ。

なんて、静かな部屋。
気ままで、自由な時間。何にも縛られない、わたしだけの・・・。
時折り携帯メールが届いたりしても、マナーモードの振動に驚いて目を覚ます君は、ここに居ない。
返信メールを打ち込むストラップに、かじりついてぶらさがる君は、ここに居ない。
絵筆も絵の具も散らかして、イーゼルも広げたまんまで、コーヒーブレイクを楽しめる。
決まって、絵筆をくわえて逃げ出す君は、ここに居ない。
絵の具を転がして、タンスの隅っこに隠してしまう君は、ここに居ない。
コーヒーカップを、いちいち、くんくん嗅ぎにくる、点検屋の君は、ここに居ない。
読みかけの新聞を、ぐしゃぐしゃにするのが好きな、きみは、どこにも居ない。
こんなにもさわやかに、能率良く、そして、味気ない毎日。

時々、わざとボールペンを転がしてみる
・・・・「くろっぴや」・・・
わたしのささやき声は、夜の闇に吸い込まれてしまうだけ。
だれも、答えない。
何も、聞こえない。
いきなり、広くなってしまったこの部屋の、そこにも、ここにも、
くろっぴや、君の居た温度が、まだ残っているというのに。
君は、新しい景色が楽しくて、わたしを忘れてしまったのだろうか?
それとも、遠くに行きすぎて、帰り道を探せず、途方に暮れて鳴いているのだろうか?

帰ってきたら、インストールの最中にキーボードを踏んでも、叱らないから。
印刷物を細かく噛み噛みしても、イヤな顔、しないから。
だから、ね、
早く、速く、帰っておいで、くろや、
くろっぴや。

おいでませ
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