「姫様とお呼び!」−亜羅摩の宝の物語−

作:とびたかろう
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あらまちゃんが何者であるかをご存知なければまずあらまちゃん絵本を、
このあらまちゃんが、女王様の格好をするなんて話が何処から生まれたのかは
彩女−日記帳2005/05/03


でかい白ナス見たいな格好で、目と口と手があるのだから生き物なのだろうが、なんなんだこいつらは。
背丈は1mもないやつら。私は縛られて寝転がされ、そいつらは私を取り囲み見下ろしていた。
中の1匹がエラそうな口でそう言った。


「これ人間、どうやって亜羅摩の里の入り口ことを知ったのだ。
勝手に立ち入ることは許しておらんぞ」

 そんなこと言われても。

「知りませんよ。どうして私がここにいるのかも分かりません。
私は駅から見えた丘の上の住宅地をめざしていただけです。
まっすぐ行けるかと思っていたのに、道に迷いました。まったくもう、すごい田舎ですね。
でも藪の向こうから音がしたんで、藪を抜けたら人の多い道にでるかなと思って、踏み込んだんです。
そしたら、穴なんてあるはず無かったのに、足元がなくなって、
気がついたらここで、いつの間にか縛られていた。
それだけです」


「ということは、おまえは四国の人間ではないのだな」

「そうです。東京からきました」

(東京だって)
(それ、どこだ)
(聞いたことがある、江戸だよ。名前が変わったって)
(へー。やっぱお前、早耳だな)


えらく時代にズレてる奴らのようだ。

「東京か。知っておるぞ、ものすごく人間が多いところじゃろ」

「はいそうです」

「江戸の、いや東京の人間がどうして四国に来た」

セールスって言っても分からないだろうな。

「私はもの売りです。商いにきたんですよ」

「あやしい。
なぜ人の多いところで商いをせず、この人間のまばらな土地に来るなど。
ここはとりわけ人の少ない土地。じゃから人間の里と亜羅魔の里のつなぎ目を残しておる。
人間の様子もたまには見ておくためにじゃ。
むかし亜羅魔と人間は仲良く暮らしておったが、
人間がいくさというものを始めてからは付き合わないようにしてきた。
しかし亜羅魔の宝の噂を聞いた人間が無断で入ってこようとする」

「田舎の人ほど、都の流行ものを欲しがるんです。
亜羅魔の宝ってなんですか。そんなもの私は知りません。本当です。
こんなところに来ちゃったのは偶然です」


「亜羅魔の宝とは…」

「続けてはいけません。本当に知らないなら教える必要はないでしょう」

「おっとそうでございました。申し訳ございません姫さま」

 おや、別のが現れたか。
姫様だって。
こいつら男はナスビだが、女はグフフな美女で、俺には竜宮城での浦島生活がまってたりするかも。
囲みが開いて新手が3匹。ちぇっ甘かった、やっぱり白ナスビか。
で、姫ってナスビはどいつだ。


「姫様、どういたします、この人間」

「私は侍女の縁戸です」

「おっと間違えた。さて姫さま…」

「やーね、私は彩女よ。摩規模姫はこちら」

「重ね重ね申し訳ありません姫」

「大臣、恐縮する必要はありません。
声を出さない限りだれが誰か分からないのは亜羅魔の里の者の宿命」


 なんだこいつら、どれもこれも似た姿だと思ったが、自分らでも見分けがつかないのか。


「これ人間。
気の毒ですが、間違えて来ただけだとしても、里の入り口を知った以上、帰すわけには行きません。
人間は恐ろしい。宝のためなら平気で亜羅摩の里のものを殺しました。ですから」


「そんな無茶な。私を殺すつもりですか」

「いや、おとなしくこの里で暮らすと言うなら、それを許します。
彩女、あなたはオヤマ犬やハテナ猫をずいぶん飼っているとか。
こいつを飼ってみませんか。ただし逃げ出さないように部屋飼いで」


「こんな不細工な生き物をですか。
でも、殺すのはいやですね。しょうがないかな」

 冗談じゃないぞ。
こんな色気もなにもないスポーツブラのようなナスビに飼われて俺の一生が終わるのか。
いやだ。
口先だけで渡ってきたお前じゃないか。こいつらを丸め込む話をなにか考えろ。
まずお美しいなんておだてあげて。
いやこいつら自分らで見分けがつかないんだから、美人だブスだなんてのはないかも。


「お美しいお声の摩規模姫さま、申し訳ございませんでした。
わたくし、亜羅魔の里のことなど知らないと言ったのは嘘でございます。
けれど宝が欲しくて来たのではありません。
里の宿命を解決すための宝を姫に捧げるためにやって来たのです。
もう一度、人間と亜羅摩のよき関係を築くために」


「宿命を解決する?本当にか」

(姫、口車に乗ってはいけません)

「本当です。私が持っていたアタッシュ、いえ、硬い板でできた行李があると思います。その中に」

(ああ、あれか)
(開けてみたか)
(見たが、わけわからんものしか入ってなかったぞ。
布でできた透けてるところの多い赤い布とか、黒い皮のやつとか)


「これはなんなのじゃ」

「おや、それに目が行きましたか、さすが奥様。
女王様セットといいまして、倦怠期の夫婦の夜の…いや違う。
えーそれは『びよおとまさめひ』というものでございます。
この紐をといていただければ使い方をお教えできるのですが」


「ふむ、では」

おや。ひもが勝手に解けてゆく。

姫!

(よい、よい。徒党を組んだ人間は恐ろしいが、一人の人間なぞ恐れることは無い)

 そうみたいだな。こいつら怪しげな力があるようだ。逃げようなんてしないほがいいか。

「姫さま、まずパンティをはいていただいて」

「犯体とはなんじゃ。穿くとはどういうことじゃ」

 むむ。こいつらどうやって移動してるんだ。足がないじゃないか。
だが尻はある。かなりエルな奥様用もちゃんと用意してるから大丈夫。


「私がこの黒いのでお見せしますね。穿くってこういうことです。姫はこの赤いのをどうぞ」

 穿けたじゃないか。

「つぎに網タイツ…を穿くのは無理のようなんで、ガーターでこう取り付けていただければ」

 次にブラジャーだが。そのままつけたんじゃペコペコか。

「こうやって胸にシリコンパッド、でブラジャーをしていただきます。
そうすればぺったん胸にも色っぽい谷間が」


 うーん。やっぱりナスに谷間が出来ても色っぽくないな。
でも俺って女装が似合うかも。いや、そんな場合ではない。


「さらにこの黒いエナメルのレース付コルセットで腰のくびれを作れば
…えー作れなくてもともかく紐を縛れば。
そして仕上げに、このムチを持ってください」


「持ちました。でも、なにも変わりませんね」

(そうです、姫様。騙されてはいけません。私が人間のインチキを暴いてみせましょう)

「片腹痛いぞ、人間。それは人間が身につけてる服というものじゃろう。
亜羅摩の里はいつも春。茨の草もなければ嵐もない。服など無用の長物」

「そうです!
だから亜羅摩の方は、こんな簡単なことに気がつかなかったんです。
今では誰が姫であるか一目瞭然じゃないですか」


(あっ!)
(そうだよ)
(姫がいつもあの格好をしていてくれたら)

「なるほどですね。これで私も『姫様とお呼び』などと言う必要がなくなります」

「それを言わないとプレイの刺激が、いや、その通りです。
さすが姫、御聡明感服いたしました。
元来人間の服は、寒さや日差し、怪我から身を守るためのものでしたが、
やがて目に見えないものを見えるようにする道具として発達したのです」


「姫、私は反対です。なにやら危険なにおいがしますぞ」

「さすがは大臣さま。ご懸念ごもっともです。
服は見えないものを見えるようにする道具になったため、偉い人を偉く見せる、
いえ、偉い人が着るということにした服を着ていると偉く見えるというおかしなものにもなりました。
偉いから皆が頭を下げるのではなく、皆が頭を下げるから偉いということになる」


「そうじゃろう。
御聡明な姫だから導きをいただいているのに、それが姫の服を着ているからといって姫となるのでは」

「しかしご懸念ありません。高価な衣服がごく一部の人間のものだった時代が終わり、
人間の世界では、今では個性を表現するための道具となりつつあります。
まだまだ、服装が偉いだけで中身のない人間はたくさんいますが、
思慮深い亜羅摩の里の皆さんならば、
個性を表現する道具としての衣服をもっと発展させられるはずです」



「よき贈り物感謝いたします。
この『びよおとまさめひ』、亜羅摩の新たな宝といたしましょう。
しかし物ではなく、お教えいただいたその智恵こそが亜羅摩の里を、
今まで以上に良い里にしてくれる宝となるでしょう」

「では、私の目的はかないましたので、人間界に帰らせていただけますよね。
この里のことは絶対に口にしませんから」


(姫、だめですぞ。絶対に口にするはずです)


「さて、困りました」

「あのー、ここのつなぎ口を残したってことは、ここを閉じることも出来るんですよね。
それで私の知らない何処かにつなぎ口を作ることは」

(おお、その手があった)
(なんて賢い人間だ)


ヲイヲイ。


「あなたを信頼しないわけではないのですが、そうさせていただきましょう。
ところで、人間の里ではなにか困ったことはないのですか。
亜羅摩の里の悩みを解決してくださったお礼になにかできるといいのですが」


「人間の里の悩みですか。いっぱいありすぎて。
そうだ、姫がおっしゃる『信頼』です。
私が今、一番胸を痛めてるのは、人々の間の信頼関係がなくなっていることです。
電話がかかってきたら詐欺だと思え。
対向車のタイヤは外れて飛んでくるかもしれない。
電車の運転手は安全より会社の指示したダイヤを守る。
食品の製造日や産地表示なんてアテにならない。
そんな状態なんです。自分が責任と誇りを持って仕事する。
だから他人もそうそしているはずだ。
その信頼が崩れたら、複雑な分業の上にある現代社会は崩壊するしかないのに」


(姫、この人間、なにを言ってるのでしょう)

(さて?)


「あのーですね。
つまり、わたし商いをしてるわけですが。
20年前なら東京でも気軽に玄関に入れてくれたんですよ。
10年前でもチェーンをかけたままなら、扉をあけて話を聞いてくれた。
それがいまじゃ、こんな田舎までこなきゃ訪問セールスの話を聞く人なんていやしない。
人を見たら泥棒と思えって社会は、私のような善良な商人には非常につらいんす」


「あなたが智恵ある善良な商人であることを疑う人が増えているということですか」

「そう、そうです」

「疑う心は、自分を信頼できない心から生まれます。
では大臣、あらまちゃんの種を少し用意してください」


(七宝のうちの一つを!この人間にですか。
亜羅摩の宝は人間の欲を誘い人間同士を争そわせますぞ)


(けれどあらまちゃんは物の宝ではなく心の宝を育てるもの。
この方ならきっとそれを生かしてくださるでしょう)


「なんでしょう、そのあれれちゃんって」

あらまちゃんです。
このタネを蒔くと、やがてキノコが生えるようにアラマちゃんという生き物が生まれてきます。
私たちの姿を小さくしたような生き物ですが、口をきくことはできません。
それにたぶん人間には見ることもできないでしょう」


「そのあられちゃんが、人間に何かするんですか」

あらまです。
あらまちゃんはなにもしません。
ただ人間が暮らしているそばに現れて、片隅から邪魔しないように見守ります。
人間がなにか失敗をしたとき、あらまと驚きます」


「それで、おやまあちゃんが助けてくれる?」

あらまです。あらまちゃんはただ驚くだけです」

「…それがなんの役に立つんですか」

「なんの役にも立ちません。けれど」

 
 そういうわけで私は、日本全国を旅しながらあらまちゃんの種を蒔いているのですよ奥さん。
この家の庭先に少しでいいんです、蒔かせていただけませんか。
 役にもたたないあらまちゃんをなぜ…ですか。
 あらまちゃんは目には見えません。
 でも、無責任なことをやろうとするとふと視線を感じるらしいです。
自分は孤独だ、自分の勝手にすればいいじゃないか。
そんなことを思ったときも、そばに誰かいてくれる気配を感じるとか。
 それですぐに人の行動が変わるわけではないでしょうが、
少しでも人が己の行動に責任を持つ気持が増していけば、人々の間の信頼関係も蘇ってくるんじゃないでしょうか。
 そしてそうなったら、人間の目にあらまちゃんが見えるようになるかもしれない。
 摩規模姫はそう言いました。それを信じてみたいのですよ。
 えっ?なぜ私のアタッシュケースに女性用下着が入っていたのか、ですか。
 私の仕事は海外で超高級ブランド下着を買い集めてセレブな方々にお届けすることなんです。
今、この中にも入っています。ご覧になりますかセレブご用達の下着。


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 …お前こそ詐欺師だろうって?とんでもない。
そりゃ確かにばったもんを”たいへんお買い得な”値段で買っていただく予定ですよ。
でもね、私の本当の商売は、面白い物語を聞かせてあげること。
そのお代を下着代に上積みしていただくだけですよ。