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竜の実

作 とびたかろう

ドラゴンフルーツなるものが売り出されてますね。なにやら不思議な外観。
あれはどんな味のものなのだろう。
そう思っているのですが、まだ確かめてません←単なるケチ。
けれど某所で少年時代のことを書いているうちに、ふと思い出しました。
「竜の実」を食べたことがあることを。

男の子が少年になるとき、彼は竜に出会います。


「なあ、定岡が言よった、あれ、分かるか?」
粗末な羽目板の向こうから雨と風が吹き込み
お互いびしょ濡れだというのに、のんきにそんな話をする。
中学一年の夏の終わり。
元々の名前は「血洗い池」だとか聞いたことがあるが、今では「ちら池」という意味不明になっている小さな池。
そこに同級のマサユキと一緒に鯉を釣りに、いや実際に釣れるののは鮒ばかりだったが、出かけていた。
ところが一天にわかに掻き曇りである。
どんどん空が黒くなり、風が出て大粒の雨が落ち始めたと思うと
あっというまに土砂降り、暴風、雷鳴となった。
幸い、水路の掃除用具などをしまっておく、粗末な板小屋があったので、二人してその中に逃げ込んだ。

逃げ込んだが、天が揺れるように唸り、空全体が光ったと思うと、バリバリドンと来る。
光と音の間が短いと雷は近い。そんな知識があったから、びびりの私はすくんでいた。

マサユキは、おとなしい性格が、地味でな顔つきにそのまま出ているやつだった。
豪胆などに程遠いはずなのに、一向に平気な顔で、何を思ったのか、その日の朝の話題を持ち出す。

夏休み中であったが、何かの理由で私達のクラスは登校していた。
そして定岡という大人びたいかつい顔の男を囲んで話題がはずんでいた。
もっとも、大人びたいかつい顔というのは当時の私の印象にすぎない。
彼は病気のせいで一年進級が遅れたという。だから本来なら中学2年になってるはずの年齢。。
中学1年頃の一歳の違いは大きい。
「気持えーよな、あれは」
そういう話題なのだが。

なんのことを話しているのか、漠然とした想像はできるのだが、経験してないので具体的なことは分からない。
あいまいにうなずく。
わたしだけではない。
「そーよな」そういう奴もいるがあいまいな顔をしているのも何人かいた。
けれど「わからん。まだじゃ」そういうことは悔しいので言えないものだ。
そうはっきり言ったやつもいない。

マサユキが言ってる「あれ」はそういうことなのだが、私よりまだ幼い顔つきのマサユキも当然、まだであり、
意味が分からなかったのだろう。
そして私もマサユキには見栄を張らずに言うことができた。
「わからんかった」
マサユキが続ける。
「気持えーゆうて、どんなんじゃろ」
お互い狭い場所で、濡れた体がくっついてる。
なにやら興奮したげにそんな話をされると妙な気分だった。

そのとき世界が真っ白になって、爆発するような音とともに大気が揺れた。
魂消える思いだった。かなり近くに落雷したのだろう。
そしてそのとき私は見た。
ちら池の水面の上に、着物を着た女の人が立っているのを。
いや、見えるはずがない。小屋の中にいたのだ。
見えた気がしただけだ。


その頃、私は4歳年上の従姉に影響されて、マンガを描こうかななどという無謀なことを考えて、
石森章太郎(当時。その後、石ノ森章太郎など、何回か改名したと思うが)の「マンガの描き方」という本を読んでいた。
そのなかに実作見本として「龍神沼」という短編が収録されていた。
龍神沼に現れる謎の美女と主人公が一瞬だが口付けする場面があったはずだ。
当時としては非常にエッチな場面で、強烈だった。
びっくらこいた脳みそが池と沼の連想で、そういう幻を見せてくれただけだったと思う。
そしてその雷を合図にしたように、雨と風は急に収まり、洗われた風景の上に青空が帰ってきた。
その後どうしたか、よく覚えてないが、びしょ濡れのまま釣りを続けたとも思えない。
すごすごと互いの家に帰ったのだろう。


そしてその夜。
ちら池の水面に立った女の人は、ゆっくりと私とマサユキのほうへすべるように歩いてきた。
私とマサユキは小屋の中にはいない。池のはたに立っている。
周囲は真っ暗で、静かだ。
その女の人は少し光って見える。
手に持ったものを私達の前にさしだして見せた。
見たことがない変な格好のもの。炎が燃えてる途中で凍りついたような姿をしていた。
「これは火炎樹の果実、竜の実です」
彼女が言った。
彼女はだれだったろう。
見知らぬ大人の女の人のようであった。
借りたランボー詩集を返しにいったらシミーズ一枚の姿で昼寝していた従姉のようでもあった。
「この果実を食べると、竜になることができます」
けれど、と彼女は言う。
「竜になる血が流れていれば」

彼女の両手が竜の実を包み、再び開かれると、実はきれいに半分に割れて彼女の二つの手にあった。
右手を高くあげて彼女は上を向いた。割れた実からとろりとしたものが滴り、
半分開いた彼女の口の中に落ちた。
からっぽになった実が彼女の手を離れ ぱちゃんと水面に落ちる。
そちらに目をやっていたら、抱き寄せられた。
その年齢では私は背の高いほうであったが、彼女はそれよりもう少し背が高かった。
見上げると、顔が目の前にあった。
柔らかな唇が私の口を覆った。
とろりとしたものが彼女の口から流れ込んだ。
味はなかった。
のどを抜けると胃も腸もすり抜けて股間に落ちた。
そしてなにかが起こった。

そこが熱かった。背骨まで変だった。
変だったが、なんだか分からなかった。
それまでの経験で言えば「痛い」としかいいようがないのだが、違う。
竜になれるのだろうか。

彼女の体が離れた。

彼女はもう片方の実から口に受けると、マサユキを抱いた。
すると彼女の衣服が透明になりはじめた。
裸になった彼女の姿が大きな白蛇に変わり、マサユキにからみつく。
マサユキは「気持えー」顔をして目を閉じている。

私は彼女に絡みつかれたマサユキにものすごい嫉妬を感じていた。

やがて彼女の姿がマサユキの体の中に溶け込むと、マサユキは竜になった。
竜は空へ昇る。

私は寂しかった。悲しかった。
マサユキは竜になったのか。ぼくはなれないのか。
下半身の痛みはいよいよ切ない。


目が覚めてからが大変だった。
パンツ、べとべと。どうしたらいいんだよ。


というわけで、男の子がパンツの中に、竜ではなく、元気な鯉を飼い始める物語であった。
そんな話を女性が管理人のところに書き込むな?
でも、鯉のことを書いていたら、
鯉はパンツの中にいるのでは?
そんな話を彩女さんが蒸し返したんですよ(とびたかの「小劇100話」参照のこと)


ちなみにその後、マサユキに会っても彼が竜になったらしい様子はなかった。